●映画「ポチの告白」
「刑事ドラマ」では見られない フツーのお巡りさんの「物語」
「日本にはなあ、逆らっちゃいけないもんが二つあるんだ。天皇陛下と警察だ!」
これは高橋玄監督の「ポチの告白」という映画で、取調室の刑事が吐くセリフ。うー
む、いわれてみるとその通りかも。日本人は権力に弱い。絶対権力の「水戸黄門」は、
映画からテレビへと百年も続いているし、現実の警察は不祥事続きなのに、テレビの特
番では、いつも刑事は犯罪を追いかける「正義の味方」だし。
外国映画では、イタリアの「警視の告白」はじめ、ハリウッドの「セルピコ」「L.
A.コンフィデンシャル」から今度公開の「ザ・クリーナー」まで、犯罪を取り締まる
はずの警察が、実は犯罪集団だったなんて映画はさして珍しくもない。ところが日本で
はそんな映画をどうも見た記憶がない。その点でも「ポチの告白」は、警察犯罪を暴い
た貴重な「社会派エンターテインメント」といえよう。
主人公は、交番勤務の純朴な警官竹田で、彼が所轄警察署の課長のめがねにかなって
刑事になるが、「家族」付き合いを強いられ、課長の命令に逆らえず、次第にワルに仕
立てられていく物語。
竹田を演じた菅田俊は「キル・ビル」の脇役で知られているが、どこか往年の若山富三郎を彷彿させる。その竹田は最初テレビの刑事のように活躍していたが、やがて自らの意志ではないとはいえ暴力団と共犯で裏金作りや偽領収書を用いた横領などに精を出して組
織犯罪に手を染めていく。
このドラマを中心に、権力を笠に着た交番の警官たちがワルさをして楽しむエピソー
ドや警察情報をうのみにする記者クラブの記者たちの「飼い犬」体質など社会支配の裏
側を戯画化して描いてみせる。
3時間15分の長丁場なのに、細部が妙にリアリティーがあって飽きない。実はこの映画、3年前に完成したのに公開されなかった。それはたぶん、あまりに挑発的だからだろう。何しろ「正義の味方」も「ポチ」呼ばわりされるのだから。
(木下昌明・「サンデー毎日」09年2月8日号所収)
*映画「ポチの告白」は東京・新宿 K'scinemaで公開中
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Last modified on 2009-01-29 14:56:14
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