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木下昌明の映画批評「カティンの森」
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●映画「カティンの森」
戦争という視点であぶり出す ロシアとポーランドの「歴史」

 ポーランドの歴史は複雑だ。83歳の巨匠アンジェイ・ワイダの映画を見ても戸惑うことがある。特に第二次大戦前後の国内外の争いや家族友人の葛藤を通して描かれる歴史は、画面だけでは見えてこないものがある。実在した事件を描いた「カティンの森」にもそんな思いをさせられる。

 一方からドイツ軍、反対からソ連軍が攻めてきて、一本の橋の上で人々が逃げまどう。その橋で主要人物の騎兵隊大尉の妻と娘、大将の妻と娘が出くわす。映画はのっけからこんな具合で、これは独ソ不可侵条約を結んだ両国が1939年9月、ポーランド領土の奪い合いを始めたからだ。

 映画は、この時ソ連軍捕虜になったポーランド将校一万数千人がこつぜんと姿を消した問題に焦点を当てる。夫の安否を気づかう大尉と大将の家族を中心にその謎に迫っていく。ワイダの父も実際、大尉で捕虜だった。彼が真相を知ったのは「地下水道」の上映で57年にフランスを訪れた時のこと。しかし自国で表ざたにできなかった彼は、次作「灰とダイヤモンド」以降、映画の中に父への思いをひそかにちりばめることで耐えた。

 90年になってソ連のゴルバチョフはスターリンの命令による虐殺として謝罪し、事件は表向き幕を閉じたが、ワイダの怒りは収まらなかった。そこで、父への鎮魂と大量虐殺を隠蔽した社会主義体制への批判を込めてこの映画を作った。図式的だが、当時の複雑な状況もとらえられている。

 興味深かったのは、ドイツとソ連が死体を発掘して記録映画に撮り、それぞれ宣伝戦にこれを利用している場面。

 事件は許しがたい犯罪である。ワイダはそれを社会主義の罪にとどめている。が、虐殺の遠因は、ポーランドがロシア革命を利用して独立し、以来、民族的敵対(戦争)が絶えなかったところにある。その先鋒を担ったのがワイダの父がいた騎兵隊だった。この点を押さえて映画を見ると刺激的だ。(木下昌明/「サンデー毎日」09年12月13日号)

*映画「カティンの森」は12月5日から東京・神田の岩波ホールでロードショー

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〔追記〕この映画については、この短評ではとても書ききれない。そこで『月刊 東京』の1月号で「ワイダが生涯をかけた問題」と題してこれを取り上げたので、興味のある方はこちらもご一読下されば幸いです。


Created by staff01. Last modified on 2009-12-11 11:03:30 Copyright: Default

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