●映画「無防備」
べきべからずの議論もかすむ 正真正銘「出産シーン」が強烈
産むべきか産まざるべきかは女性にとって大問題だ。編著書『産まない選択』を出した福島瑞穂が少子化担当相になって、彼女の主張と矛盾しているのではと話題になっているが、産むも産まないも経済条件が大きく影響している。その証拠に、高度経済成長期にはベビーブームで年間約200万人出生したが、その世代が大人になった時には経済不況となり、逆に約100万人と半減しているのだ。いまの時代、産むこと自体困難になっている。だから産まなければいいのか? それでも産みたい女性もまた大勢いる。
この難題の答えになっているかどうか怪しいが、ここに一本の映画がある。市井昌秀監督の「無防備」がそれだ。
これはフィクションだが、実は、市井の妻で女優の今野早苗が妊娠したのをきっかけに構想された映画である。夫は妻に「出産」の映画を撮ろうともちかけ、おなかが大きくなってから撮影に入った。
といっても、妻が主人公ではない。田園風景の中にぽつんと立つプラスチック工場で働く森谷文子演じる30代の主婦が主人公である。彼女は毎日、部品の欠陥を選り分ける作業をし、家では寝室が別々の冷えきった夫婦生活を送っている。工場は人手が足りないので妊婦を雇う。主婦は、何くれとなく面倒を見て妊婦と仲良くなるが、ある時から殺意を抱くようになる。そこに出産をめぐる女性の切実な思いが顔をのぞかせる。
シーンとしては、仕事中に大きなおなかをさらしてみんなに触らせる妊婦のあっけらかんとした振る舞いが印象的。が、何よりも出産のラストが強烈。何しろ妊婦役の女優が実際に出産するのだから。演技の時とはひと味違って、汗にまみれて必死に産もうとする表情が生々しい。将来、どんな困難が待ちうけていようと、産もうとする女性は美しい。―これがR―18指定だからあきれる。(木下昌明/「サンデー毎日」09年10月18日号)
*映画「無防備」は10月10日(十月十日!)から東京・シネマート新宿でロードショーほか全国順次公開 写真=(c)2008『無防備』製作委員会
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Last modified on 2009-10-09 15:17:49
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