松原です。
MediR「ワーキングプア川柳講座」(6月16日)はとてもよかったです。
講師の尾藤一泉さん(川柳学会理事/写真左上)は、「俳句は作者のものだが、
川柳は読者が共感して
広がっていくもの。だから川柳には“作者不詳”が多い。共感が広がる
内容をつくるには、(1)押し付けをしない、(2)当たり前のことをいわない、
(3)洗練された日本語のリズム(5-7-5)を活かす」などの指摘がありました。
また「作者がすべてを言おうとしない、自分で結論を出さない」ともいわれ、
読者に思考を促すものだということがわかりました。そういうところに
川柳の「大衆文化」たる所以があるのだと知りました。
昨年レイバーフェスタの101句から、尾藤さんがいい句として挙げたのは以下の
とおりです。カッコ内は「講評」です。
・天網も ぼろぼろになる セーフティ
・すべり台 急降下して 寝る路上
(すべり台にリストラ・派遣・アルバイトなどの感じが出ている。公園のすべり台
と寝る路上、の関係もいい)
・銭湯で 今年の垢を 落としきる
(毎日の垢でなく“今年の垢”としたところがうまい)
・ポストには ピザのチラシと 請求書
(事実をサラリと描いているところがいい)
・指折って 数える仕草が 多くなり
(余計なこといわず何気なく社会を描いている。お金なのか時間なのか、指を折るし
ぐさの解釈は読者にゆだねられている)
・蟹工船 売れて多喜二は 苦笑い
(「は」という助詞は限定・説明に使う。「の」は軽い切れ字で広がりをもつ。
「蟹工船 売れて多喜二の 苦笑い」にしたほうがよい。)
・貯金なし 家なし趣味なし 嫁こない
(「嫁こない」が惜しい。「なし」で韻を踏んでいるので、「貯金なし 家なし趣味
なし 嫁もなし」にするといい。これは作り手の持ち歌になる。)
また、定型の5-7-5をはずさないほうがいいという例としてあげたのが、
・レイバーネット 小さなしみでも 大きな地図
(これを定型句にすれば川柳らしくなる。たとえば
「LN(えるえぬ)の 小さい染みでも デカイ地図」)
フェスタで一番人気だった
・ふざけるな 女は前から 非正規だ
については、「はじめに“ふざけるな”という強い気持ちを言ってしまい、それで
終わっているところがある。そこが惜しい」と講評した。
また尾藤さんが、時事川柳の白眉として紹介した句は、
・アメリカの 時計が止まる 午前九時
で、9.11事件のあとに読売新聞に投稿された句だという。
「この句はその日のうちにつくっている。時事川柳は鮮度が大事で、世の中の関心が高
まっているうちに発表することがポイント。関心のピークがだいぶ落ちてからだと、気
の抜けたビールになる」と言いました。受講生が質問で「それでは事件とともに、その
川柳も忘れさられていくのでは・・」というと、尾藤さんは「そうではない。すぐれた
句は、句が生き残り、その句を読むことで事件を思い起こすことになる」と答えた。な
るほど・・。鶴彬の川柳などは、まさに時代を甦らせてくれますね。
以上、講座のごく一端を紹介しました。私も一度つくってみたい、と思わせるものでし
た。
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staff01.
Last modified on 2009-06-21 23:21:44
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