●映画「ハーヴェイ・ミルク」
映画も人の世も最初に「道」を切りひらく「誰か」が存在する
かつて映画の主人公に、観客(筆者)は安心して同化しラブシーンにうっとりしたも
のだが、近年、男同士や女同士のラブシーンが増え、これには途方にくれることしばし
ばである。同性愛に対する社会的関心の現れなのだろうか。
昨年は「ブロークバック・マウンテン」がアカデミー監督賞、今年は「ミルク」がア
カデミー主演男優賞に輝き、同性愛を扱う映画は市民権を獲得しつつある。が、ミルク
役を熱演したショーン・ペンのラブシーンにはうっとりどころか「役者って大変だなぁ
」という思いが先に立つ。とはいえ、同性愛ものが理解できるようになったのは「ミル
ク」のもとになったロバート・エプスタイン&リチャード・シュミーセンの「ハーヴェ
イ・ミルク」(1984年)のお陰だ。
これは70年代のサンフランシスコを舞台に、さまざまなマイノリティーの人権を求め
てたたかい、暗殺されたミルクという一人のゲイの生涯を描いたドキュメンタリーだ。
彼は市政の執行委員に当選し、同じく委員となった元警察官のホワイトと対立しながら
も、新市長の協力を得て新しい条例を作っていく。なかでも、学校から同性愛の教師を
しめだす〈提案〉に全米を巻き込んで反対したミルクのエネルギーは多くの共感を呼ん
だ。
映画は、その彼とかかわった人々の証言や生前の彼の活動ぶりを報道した映像をふん
だんに盛り込んで、ドラマ以上の劇的な展開を見せる。これには誰しもが息をのもう。
また、人は自ら好んでゲイになるのではなく、突然ある時、ゲイと気づかされる。そ
してゲイであるとは、同性愛をさげすむ社会と立ち向かわなければ自分自身にはなれな
いこと、そのためには恐れずにカムアウトすることが大切である―と映画は訴えている
。
近々公開の「ミルク」と併せて見るといい。目からウロコの一作だ。(木下昌明/「サンデー毎日」09年4月12日号)
*映画「ハーヴェイ・ミルク」は4月18日から東京・渋谷のアップリンクXでレイトショーによる再公開
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Last modified on 2009-04-11 11:04:09
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