映画評「おくりびと」〜「死」に向き合う愛を描く | |||||||
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映画「おくりびと」(9月13日公開)を試写会で見た。いい作品である。 題材は「納棺師」。遺族が見守るなかで遺体の目を閉じ、口を整える。顔を剃り、着物を着せ、化粧を施して棺に納める職業である。第32回モントリオール世界映画祭でグランプリを受賞した。 チェロ奏者として憧れのオーケストラの一員になった小林大悟(本木雅弘)は、ある日突然オーナーから解散を言い渡される。 1800万円のローンで買った愛機を手放した大悟は、ウエブデザイナーの妻・美香(広末涼子)とともに、故郷山形に帰り、母親の残した家に住み始める。 「年齢問わず高給、労働時間わずか、旅のお手伝い」――求人広告の見出しに引かれ訪れた会社は、社長佐々木(山崎努)と事務員上村(余貴美子)一人の、小さな事務所だった。初任給50万円の新しい仕事は、それまでまったく無縁の「納棺師」。いぶかる妻には、「冠婚葬祭関係」とだけ告げて、ひたすら隠すことに。 ニューハーフの青年、暴走族と事故死した娘。遺体を見てとまどい、嘔吐し、食欲をなくす大悟。それでもさまざまな「死」と向き合い、遺族に感謝されながら仕事にやりがいを感じ始める。 そんなある日、仕事が妻に知られてしまう。「さわらないで、汚らわしい」――激怒する美香、とほうにくれる大悟。死にまつわる職業はいつの日も、差別の偏見の対象だった。銭湯経営の幼なじみ山下(杉本哲太)からも侮蔑の捨てぜりふ。妻は実家に帰ってしまった。幼いころ、家族を捨てて姿をくらました父親への憎しみ。トラウマを抱きながらも、大悟は職人として、人間として成長を遂げていく。 山形県庄内平野の景色が美しい。銭湯をたたもうとする山下と、客のためになんとか存続させようとする母親ツヤ子(吉行和子)の確執。脱衣場で牛乳を飲みながら、一人詰め将棋に興じる男。地域の人々との、なにげないふれあいの随所に、物語後半への布石が散りばめられている。 映画で初めて脚本を担当した放送作家の小山薫堂(くんどう)氏。山形へ取材に出向き、若い納棺師はじめ火葬場や斎場の職員ら「関係者」に話を聞いて歩いた。 小山氏は、「食をアクセントとして、どうちりばめられるかも最初からかなり考えていた」(9月10日・東京新聞)と打ち明ける。なるほど、事務所で3人がフグの白子やクリスマスの鶏肉をむさぼるシーンがある。「これうまいですね」と驚く大悟に、佐々木は「ああ、困ったことに」とつぶやく。絶妙のやりとりである。「生きることは食べること」――「命のバトンタッチ」というメッセージが込められている。 「涙あり、笑いあり」では、終わらない。全編を通じて、市井の「普通」の人々の生きざま、日本社会が抱える課題をしっかり盛り込んでいる。チェロとピアノが織りなす美しくも哀しいメロディは、物語を荘厳に引き締め、ため息がでるようなどんでん返しも待っている。 端正で寡黙。本木の演技がすばらしい。見守る山崎の存在感も絶大。それぞれの過去を背負いながら生きる社員3人の絆。絶対に必要だとは感じていても、自分だけはそれを忌避する人間の身勝手さ。だが、この人たちと一緒なら、この仕事を続けられる。そんな徒弟関係に、心を打たれるのだ。 息をのむ納棺師の職人技が、「死者」を送りだす人間愛を呼び起こす。この秋いちばんの感動作である。(T・横山) Created by staff01. Last modified on 2008-09-16 00:35:53 Copyright: Default |