映画「休暇」を観て〜死刑の非日常性と残酷さ | |
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佐々木有美です。
レイバーネット「木下昌明の映画の部屋」でとりあげられている映画『休暇』を 観てきました。以下感想です。 13名を刑場に送った鳩山法務大臣は、「正義を実現し、法が支配する国を実現し ていくために、粛々と死刑を執行している」と記者会見で述べた。いま公開中の 映画『休暇』は、死刑を執行する刑務官の苦悩と悲哀を描いたドラマだが、死刑 執行のプロセスについて圧倒的なリアリティーをもって描写している。元刑務官 の坂本敏夫氏が刑務関係アドバイザーとしてかかわっていることも、この作品の 客観性と迫真性を一段と高めているに違いない。 死刑囚の金田真一は、ある朝突然「出房」という刑務官のことばで無理やり独房 から連れ出される。全身で反発する金田。教誨師の前に立たされるときの呼吸の 乱れと震え。教誨師が去るとき、思わず付き従って歩みはじめる金田を、周りを 取り囲んだ十数人の刑務官が押さえ込む。11年前に処刑された永山則夫死刑囚 の遺体は、傷だらけだったという。最後まで死刑に抗い続けた彼の姿が想像でき る。映画の死刑囚はそれに比べれば、従順すぎるほどだ。そして、遺書を書かさ れ(彼は一行も書くことができなかったが)、水を飲む。彼は、コップになみな みと注がれた水をそれこそ生きている証であるかのように飲み干す。死の直前の 儀式がおわると白い布で目隠しをされ、手錠をかけられ、両足を紐で結ばれる。 カーテンが開けられるとそこは刑場だ。踏み板がはずされ、1階に宙吊りになる 遺体。それを支えるために抱きとめる刑務官。 この映画は、不思議な映画だ。執行に関わる刑務官が主人公のドラマなのだから 当然といえばそれまでだが、死刑囚についての情報が少なすぎる。彼がどんな罪 を犯して死刑になったのかもわからない。妹が面会に来るが、二人はひとことも 語らない。寡黙な彼は一日中絵を描いている。そして独房には幻の中年男女の姿 が現れたりする。断片の情報をつなぎ合わせれば、彼が両親を殺害した罪で死刑 になったということも想像できる。しかし、それはぼかされたままだ。映画は、 あえて具体的な犯罪を示さず、死刑囚の日常を淡々と描く中から、死刑の非日常 性を、その残酷さを浮かびあがらせる。 死刑執行を控えた金田に(もちろん本人に執行のことは知らされていない)哀れ みを感じた刑務官が、ほしいものはないかと問う。彼ははじめは断るが、少し考 えて、音楽が聴きたいと言う。翌日、CDプレーヤーをもって現れた刑務官。し かし金田は、ほんのわずか聴いただけでもういいと言う。刑務官が去ったあと、 彼は壁に頭を打ちつけ、さらに部屋中のものを投げつけて荒れ狂う。ちょっとし た刑務官の態度の変化に死刑を予感する死刑囚の張り詰めた心情が痛いほど伝わ ってくるシーンだ。 世論の圧倒的多数が死刑制度の存続を支持しているという。しかし賛否を問わず 死刑の現実をどれほどの人が知っているだろうか。この映画は、死刑囚の生きよ うとする命と、これを断絶させようとする国家の意思、そのはざまで苦悩する刑 務官を淡々と描ききって観るものを揺さぶる。ほんとうにこれが「正義の実現」 といえるのか。 映画『休暇』のHP http://www.eigakyuka.com/top.html レイバーネット「木下昌明の映画の部屋」 http://www.labornetjp.org/Column/20080613 Created by staff01. Last modified on 2008-06-26 00:59:14 Copyright: Default |