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木下昌明の映画批評「ブタがいた教室」
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●映画「ブタがいた教室」
子ども自身が考える大切さ

 食べるか、食べないか、それが問題だ―これはシェークスピア劇のセリフではない。小学校のクラスでブタを飼い、卒業間近になって「ハムレット」のように悩み始めた教師と児童の議題である。

 前田哲監督の「ブタがいた教室」は、大阪の小学校で実際にあった話をもとにして作られた映画であるが、これがおもしろい。

 新任の教師(妻夫木聡)が生まれたての子ブタを抱えて学校にやってくる。彼は26人の児童に「みんなでブタを飼って大きくなったら食べよう」と提案する。子どもたちは大賛成で、校庭の片隅にブタ小屋を立てる。

 さあ、ここからが大変。児童は給食の残飯を譲ってもらったり、家から食事を残して持ってきたり、柵を破った子ブタに校舎を駆け回られたり、風邪をひいた子ブタを看病したりと、てんやわんや。

 問題は「Pちゃん」と名づけた子ブタが、食用の家畜からペットに変わったことだ。食べるのに反対する児童が増え、食べるか食べないかで議論が白熱する。その一方で、ブタはペットの域を超えてどんどん大きくなっていく……。

 映画は、その時の教師であった黒田恭史がつづった『豚のPちゃんと32人の小学生』を原案にしている。1993年に一度、民放のドキュメンタリー番組として放映されたことがある。もとはNHKスペシャルで放映される予定だったが、内部の「これは教育ではない」という鶴の一声で中止に追い込まれたという。

 興味深いのは、児童の議論シーン。教室に7台のカメラをすえ、(撮影のためとはいえ、実際にブタの飼育を体験した子役の)児童から台本にないナマの議論を引き出し、その真剣な表情をさまざまな角度からとらえていることだ。

 問われているのは「命」の問題。それを上からでなく下から―子ども自身が考えて意見をたたかわせることの大切さ、として描く。ここに生きた教育がある。(木下昌明)

*追記 : なお「ブタがいた教室」は東京国際映画祭で「観客賞」をとりました。おもしろいですよ。

映画「ブタがいた教室」は、11月1日からシネ・リーブル池袋、新宿武蔵野館ほか全国ロードショー。(C)2008「ブタがいた教室」製作委員会

「サンデー毎日」08年11月2日号所収


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