マイケル・ムーア監督の「シッコ」を見てきました。アメリカに行くのが恐ろしくなる映画でした。２億５千万人の保険に入れる人々と無保険の５千万人。診療費が払えないと容赦なく病院からおいだされ、路上に捨てられてしまうアメリカ。全てがいかに儲けるか、儲かるかで判断されてしまうのです。

保険に入れない人たちはひどい状況にいるわけですが、この映画はその人たちの物語ではなく。保険に入れて大丈夫だと思われていた人たちの映画だと、言っております。先進国で唯一の無保険国アメリカ。医療を保険会社が牛耳り、診察も診療も医者が直すために治療を決定するのではなく、保険会社が判断しどうすれば儲かるかで治療を決定をするという信じられないことが、アメリカの医療の実態。ひとたび病気になると保険に入っていて安心していた人も、「無断で救急車に乗った」・「指定された病院でなかった」・「既往症があった」・「有効的な治療ではない」など様々な理由をつけて診療を拒否され、支払いを拒絶されてしまうのでした。医者は患者を治すのではなく、保険会社に損をさせないということが大切で、保険会社に損をさせなかった医者は収入も増えていくようになっているのです。９・１１の「英雄も」ボランティアで駆けつけた人も確かにその場にいて因果関係が明らかな役所の人間以外は補償からはずされていたそうです。ボランティア等は政府の管轄外ということで置き去りです。これまた信じられない話です。多額の寄付が集まりながら、ボランティアや消防士などの治療や補償には厳しいチェックがあり、自費で直すとなるとすぐに１０００万円近くや越える費用がかかってしまい、満足に治療を受けられなく、中指と薬指を無くしたのにお金の都合で薬指だけしか着けられなかった人も出てきました。

隣国カナダでは全ての医療が無料なので、偽装結婚して治療する人もいるそうです。
映画の中でカナダ人が自国で保険に加入してからでないとアメリカには３０分でさえ高額医療費が怖くて行くことはできない。と言われているようなアメリカと他国の医療制度の違いをマイケルムーアがカナダ・イギリス・フランス・キューバなどを訪問・取材して引き出していくのでした。アメリカ人はイギリス・フランスのことをよく言いません。（日本でも英国病などといって「ゆりかごから墓場まで」といわれるイギリスを怠け者だと決め付けていたように思います。）キューバなどは悪魔の住処になっているといわれています。社会主義は諸悪の根源。社会主義の宣伝は医療費の無料化から始まり、社会を全体主義に変え、個人の自由を奪う。医者も自由な診療ができなくなってしまうから、医療制度の確立はよくないことだと保険会社はキャンペーンしてきたらしいのです。しかし彼が訪問取材したこれらの国の現実は、（彼の映画は取材量と取材の確かさ鋭さが素晴らしいと思いますが）そのキャンペーンがいかにでたらめであるかを、たくみに飽きることなく映像化しています。

アメリカの医療制度をこのように悲惨なものにしたのは誰か。ニクソン！。駄目にしているのはブッシュ！。とはっきりとニクソンの肉声をもって指摘し、医療制度を一時はよくしようとしたヒラリークイーンも、今では全米保険協会？（正しい名は忘れた)に抱き込まれ、ブッシュに継ぐ献金を受けていることも明らかにしています。取材した各国とも医療費が無料なことにムーアはびっくりします。おそらくほとんどのアメリカ人が無料かなんてありえないことと思っていたのでしょう。でも現実は無料どころか、休業補償・育児援助なども発達しているのが、アメリカより生産性が下の国にある。アメリカで１２０ドルする薬がキューバでは６セント。しかもこの赤い悪魔の国が、アメリカで受けられなかった治療をしてくれる。この映画は自国の医療制度をきちんとしたものを作り出せという監督のアメリカ人へのメッセージ映画のようだと思いますが、見ていてフランスの素晴らしさが目立ったような気がしました。フランスは何故このような制度ができたか。それは政府が、国民を恐れているからだ。絶えず要求をし、戦って勝ち取ってきたものですが、アメリカでは国民が政府を恐れて何もしないから駄目なのだ。（日本も同様かな）監督はアメリカ国民よ「行動せよ！」と呼びかけ、アメリカ国民に一番見て欲しいと作られた映画だと思います。

しかし日本も以前は被保険者本人は無料だったのにいつのまにか１割３割と有料になってしまいました。今後、障害者自立支援法などによりますます医療福祉制度が悪くなろうとしています。私は心臓にＣＲＴーＤなどの機械を２度入れたので１０００万円以上のお金がかかっているようなのですが、幸いにして今のところは負担がほとんどゼロですんでおります。これがアメリカのようになったら、とても手術など受けることはできなかったと思います。しかしフランスなどにいたらもっとよかったのかもしれません。
しかし今私のように拡張型心筋症にかかった人はアメリカにいって手術するのが一般的です。医療保険制度はだめでも、医療技術は高度のようです。せっかくの高度医療が金持ちしか受けることができないことが問題なのでしょう。アメリカに行かねばならないから高額の医療費をカンパしてもらい行くしかないのかもしれません。これがフランスの心臓病の医療が良かったら、安くできたのかな。キューバだったら無料かな。（それとも貧乏人がろくな医療を受けられないアメリカだからこそ、死んでしま
う人が多く、心臓が提供される件数が多くなるのかな。）

　いろいろあらすじを書いてしまいましたが、あらためてアメリカに生まれなくて良かった。アメリカ人でなくて良かったと思ってしまう映画でした。ところで「硫黄島・・」でも取り上げていましたが、アメリカは一時敵には兵士などを英雄として祭り上げキャンペーンを張りますが、役割がが終わるとその後は面倒を見ずほったらかしの国のようです。ベトナム戦争帰還兵・、湾岸戦争のウラン弾被害者等、みんな悲惨な今を生きているようです。お金を持った人は兵隊なんかにならないですから、そのような被害に遭わなくてもすみます。ともすればつまらなそうな題材を飽きずに見させ・考えさせてくれ・恐ろしい今の医療制度を変えていかねばならないと、訴えている映像に仕上げたムーア監督はさすがすごいなっと思いました。アメリカの真似をしていく日本もいつアメリカのようになってしまうかも分かりません。人事ではないような気がします。

07・08・30 里見羊

---

Created by staff01 and Staff. Last modified on 2007-09-11 09:00:26 Copyright: Default