*以下は「週刊金曜日」人権とメディア欄(9月14日号)に発表されたものです。筆者のご厚意で、転載紹介します。
ユニオンYes! キャンペーン
〈貧困化〉と闘うメディア創り
山口正紀(ジャーナリスト)
〈新聞で見つめる社会 見つけるあした〉――日本新聞協会が九月五日発表した
今年の新聞週間標語だ。作ったのは中学三年生。新聞の「本来の役割」を簡潔に表
現した、とてもいい標語だと思う。
だが、「新聞の現実」は、この標語にふさわしいか。読者が社会を見つめ、あし
たを見つけられるような紙面を作っているか。上っ面の現象は報じても、その原因
を掘り下げ、「では私たちはどうすればいいか」を読者が見出せる報道にはなって
いないのではないか。
その典型が、働く若者の貧困化。「ワーキング・プア」の悲惨な状況、「非正規
雇用」「偽装請負」などの雇用・労働実態はこの数年、かなり報じられるようになっ
た。
しかし、報道は「悲惨な状況」「悪質な派遣」の実態止まり。それをもたらした構
造、労働者派遣法の度重なる改悪など「改革」の偽名で強行される「労働の規制緩
和」という政治の根源にメスを入れるところまでは、踏み込まない。
若者たちが「フリーター労組」などと出会い、「一人でも入れる労働組合」を作っ
て、自らの手で「悲惨な状況」を打ち破っていることも、ほとんど取り上げられな
い。
こうしたメディア状況の中、ネット・映像・活字など多様なメディアを駆使し、
まだ「あした」を見つけ出せないでいる若者たちに「ユニオンで一緒に闘おう」と
呼びかける新しい試みが始まる。「レイバーネット日本」が中心になり、九月一八
日にスタートする「ユニオンYes!キャンペーン」だ。
この運動の“目玉”が、動画投稿サイト「ユニオンチューブ」。世界最大規模の
無料動画共有サイト「ユーチューブ」をモデルに、若者たち自身が作った数分間の
短い映像で、ユニオン(労働組合)の役割や闘い方、活動の様子、楽しさなどを伝
えようという試みだ。
七月二五日、都内で開かれた「プレ集会」で、ユニオンチューブの試作版四本が
上映された。結成まもない東京東部労組コナカ支部、ガテン系連帯などが作った二
〜三分程度のビデオ。「組合に入って、ここが良かった」と話す「正統派」作品、
若者三人が走り回り、「ユニオンイエス」と叫ぶだけの不思議な映像など、意外に?
楽しかった。
キャンペーンの事務局長・土屋トカチさんも、「あなたにとって労働組合とは」と
問いかけ、答えをスケッチブックに次々と書いてもらう作品を作り、上映された。
彼自身、五年前に映像製作会社を解雇され、相談に行ってユニオンと出会った一人。
プレ集会で、「組合って敷居が高い、なんとなく怖い人がいるんじゃないかと思っ
ていました。そんなイメージを、映像を通じて変えていきたい。若い人たちに、組
合が役に立つことを身近に感じてほしい」と話した。
この集会では、「フリーターでも一人でも、労働組合を作れる。組合を作れば、
会社と対等な立場で団体交渉ができる。ユニオンと出会って、そんなことを初めて
知った」という若者の発言もあった。
八月二一日付『朝日新聞』「私の視点」に、《働く者の権利教えよう》という投稿
が掲載された。労働基準法、労働組合法をどう使えばよいのか、社会保険や雇用保
険の仕組みとは――。こうした知識を学ぶ機会もなく社会に出て働くのは、《無防
備なまま荒海に飛び込まされるようなものではないか》と寄稿者は指摘した。学校
もメディアも、肝腎のことを教えてくれない。
九月一八日夜、東京・中野(なかのゼロ)で開かれる「キャンペーン・キックオフ
集会」では、ユニオンチューブの最新映像を上映、組合に入った若者たちが発言し、
雨宮処凛さんが「ユニオン作って、生きさせろ」と題して話す。二四日には、同じ
会場で終日「レイバー映画祭」を開き、労働者の闘い・誇りを描いた映画八本を上
映する。
ユニオンYes!キャンペーンは、若者に「希望は、戦争。」と言わせないための
運動であり、そのためのメディアを自前で創り出す試みでもあると思う。運動の合
い言葉は、「希望は、ユニオン。」
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staff01.
Last modified on 2007-09-15 12:14:39
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