*『サンデー毎日』2006年10月29日号「ニュースナビ」より
「今」をつらぬく「昔の闘い」
「三池」を問う珍しい劇映画
木下昌明
日本映画から「社会性」が失われて久しい。
ノスタルジアものやホラーもの、家族の愛憎ものや死んでも蘇ってくる恋愛ものなど
バラエティーにとんだ劇映画は多いが、社会に「異議申し立て」をする作品はほとんど
見かけなくなった。そんな中で、多少の難はあるものの、港健二郎監督の「ひだるか」
は、お勧めだ。
主人公は、福岡のテレビ局の花形キャスターとして勤める30代前半の女性(新人・岡
本美沙)。トップシーンはサングラスをかけて、真っ赤なスポーツカーで高速道路を突
っ走る格好よさ。恋人はヤリ手の制作部長で、自宅のマンションにはピアノがあって…
…と、何不自由のない生活をしている。そんな彼女でありながら、「わたし、どう生き
ればいいんだろう」と悩んでいる。
タイトルの「ひだるか」は方言で「ひもじく、だるい」という意味。彼女の精神状態
を表す。ここでの社会性は、そのテレビ局で起きた争議のことだ。テレビのデジタル化
時代を迎えた地方局は、外国資本と提携し、大量リストラによってこれを乗り切ろうと
する。若い組合活動家は反対して闘うが、主人公は上司のディレクターらのヤ誘いユに
のって第二組合へ。
こういった「事態」に厚みを加えるのが、四十数年前にその地(大牟田市)で起きた
炭鉱労働者による大争議―戦後の日本をゆるがした三池闘争。「総資本と総労働の対決
」といわれた、その歴史をドキュメントに撮る「現場」に彼女は立つ。そこから、違っ
た生き方が見えてくる。
圧巻は、主人公が荒れ地と化した炭鉱跡を撮るシーンに当時のモノクロの記録映像を
重ねて問うところ。―かれらはなぜ、敗北したのか?
映画は、夕張など旧産炭地を中心に全国で公開。東京はシネマアートン下北沢で10月
21日より。劇場問い合わせ 03―5452―1400。
写真=現場に立つヒロイン―「ひだるか」の1シーン
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Last modified on 2006-10-21 10:37:04
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