イ・サンジョンさんの講演の要旨（長野・新潟講演を中心に）

農民運動への参加のきっかけ
□ 私は現在、１１万羽のブロイラーを飼う養鶏農家だが、家は公務員で農業とは関係がなかった。大学時代（１９８７年頃）に学生運動をやり、卒業後、農民運動をやるために農村に入り、農業をするようになった。私のように農民運動を志す活動家は年間数十人もいる。

□ 家族は反対したが、最後は納得してくれた。何を生産するかを考えた結果、養鶏がもっとも採算性があると考えた。そのため、現在は比較的安定している。他の生産物を選んだ活動家はかなり苦労している。
全国農民会総連盟（全農）の概要
□ 全農は１９９０年に結成された。現在、全国に１００の支部を持っている。会員は３万人程度である。

□ 全農の指導部は１９７０年代から運動してきた人達で、その頃は２つの農民組合があったが、９０年に統合されて全農となった。

□ 全農は大衆組織として、自らの生活と権利を守ることと、北との統一に備え、統一した場合の南北の農業のあり方も考えて活動している。
韓国の農民運動の状況
□ 韓国の農業は危機的状況にある。特に今、ノムヒョン政権は、米の市場開放（米輸入の関税化への移行）を決め、国会批准を行おうとしている直前にある。

□ 米の開放の内容は、①外国産米の８％の義務的輸入、②１０年後には米の全面開放（関税化）、③義務量の３０％をアメリカから輸入する、というものである。

□ その他にも、アメリカからＢＳＥで止まっている牛肉の輸入再開、中国からリンゴや梨などの輸入、インドやエジプトから米を買い上げることも秘密裏に交渉が進められてきたことがわかった。

□ 政府は農民を完全にだましてきた。特にアメリカからは強い要求があり、それに従う姿勢を示している。
農民ゼネストで対抗
□ これらに対して、全農は農民のゼネストを呼びかけている。すでに６月に第一次のゼネストを行った。その結果、米の開放の国会批准をくい止めることが出来た。

□ 第一次ゼネストでは、具体的に、①トラクターで高速道路を封鎖する、②農産物の出荷を拒否し、集荷場前で燃やす、③田植え後の水田をトラクターで潰す、などを行った。

□ この行動に対して、多くの国民が支持をしてくれた。それは、農民が大変な状況にあることを国民が分かってくれていること、多くの人が農村から都市に流れてきたという歴史、消費者の中でも農村を守ろうという運動が起きていること、輸入農産物の安全性に問題があることなどがある。いっさい、妥協することなく闘うことが重要だと思っている。

□ そして、１０月２８日に第二次ゼネストを行おうとしている。計画では、全国の１００支部で米を持ち寄り、各地の政府関係機関などの庁舎前に積み上げて抗議集会を開く。その量は全てあわせると１千万ガマ（４０万トン＝韓国の食用米の約１割に相当）にものぼる。また、与党ウリ党の各地の事務所での籠城闘争も行う。このゼネストには１０万人が参加する予定だ。
韓国の農業政策の現状
□ ７０年代のパク政権、チョンドファン政権から、低賃金、低米価政策が取られてきた。それまで韓国は食料自給率は１００％あったものが、農産物の価格低下と輸入政策によって自給率は低下し、現在は２５％にまでなっている。このうち、米を除くと自給率はたった５％でしかない。

□ 生産者米価をみると、昨年は８０キログラムあたり１万８千円だったものが、今年は１万３千円に急激に低下している。

□ 特に、ガット・ウルグアイラウンド、ＷＴＯを通じて韓国の農業体系は崩れてきた。さらに、９７年のＩＭＦによる構造調整を受けることで、さらに農家の所得が減少し、負債が増大している。とても農業を続けていける状況ではない。

□ 農家の人口はかつて１千万人もいたが、現在は３５０万人にまで減っている。年間５０万人が離農してきたことになる。このままではあと数年で韓国農業は滅びてしまう。

□ 農家負債のために、農薬を飲んで自殺する農民が増えている。私の知り合いでも自殺した農民がいる。
ＷＴＯ、ＦＴＡと韓国農業
□ ２００３年にメキシコ・カンクンで開かれたＷＴＯ閣僚会議に抗議し、韓国の農民活動家イ・ギヨンヘさんが「ＷＴＯは農民を殺す」と叫んで自決した。まさに、ＷＴＯは自由貿易を促進し、農民を殺して、多国籍企業の利益を守るものでしかない。

□ 多国籍の穀物メジャーは穀物貿易の８０％を支配している。さらに、ＷＴＯを利用して儲けようとしているのである。

□ 現在、ＷＴＯの農業交渉に対して、アメリカは高関税品目については、７５％にまで引き下げる上限関税の導入を主張している。これが認められたら韓国農業は滅びてしまうだろう。

□ ＷＴＯが世界的な自由化推進をめざすものとするなら、ＡＰＥＣは地域ブロックを通じて自由貿易を進めるものであり、さらにＦＴＡは二国間でそれを進めるためのものである。

□ 韓国とチリとのＦＴＡ交渉に対しては、全農は１２０回にわたるソウルでの抗議集会を続けてきた。政府は、この交渉は韓国が経済的に利益があると宣伝してきたが、輸入ばかりが増えて貿易赤字を生んでいる。特にチリからブドウや桃、豚肉の輸入が増加している。そのため、１万戸の果樹農家が潰れている。
１１月釜山、１２月香港に向けた闘い
□ 私たちは、１１月の釜山でのＡＰＥＣ首脳会議に対しては、１０万人の反対デモを予定している。そのうち、５万人は農民が参加する。１２月の香港のＷＴＯ閣僚会議に向けては、農民だけで１５００人が参加する。すでに参加者を決め、手配が終わっている。そのような闘いでＡＰＥＣやＷＴＯを粉砕する行動を取る。

□ ＡＰＥＣやＷＴＯのめざす新自由主義は人類の幸福とはつながらない。今、地球上に８億の人々が飢餓に直面し、３５００万人が毎年死んでいる。１時間に４千人が餓死していることになる。そして、２割の人間が地球上の８割の富を独占している。

□ 多くの国が新自由主義の結果、滅びることになるだろう。アメリカでも貧富の格差が大きくなっており、いずれ衰退せざるをえないだろう。ブッシュと小泉はまさに新自由主義の手先となっている。

□ ９月１１日にイ・ギョンヘさんの２周忌追悼集会が行われ、２万人が集まった。警官との激しい衝突で、私も頭にケガをして７針も縫った。農民は生きるか死ぬかの瀬戸際に立たされている。我々は、「イ・ギョンヘさんのように死なずに闘おう」と決めているが、死ぬ覚悟で闘えば展望は開けてくる。

□ 日本の皆さんとも一緒に闘っていきたい。それは、自分の生存を守るための闘いでもある。ともに立ち上がろう。