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木下昌明の映画の部屋・115回
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北朝鮮の家族を撮った女性監督の第2作『愛しきソナ』

5年前に公開されたヤン・ヨンヒの『ディア・ピョンヤン』は衝撃的だった。

 ヨンヒは大阪生まれの在日二世でヤン家の末っ子。彼女には両親と10歳以上離れた3人の兄がいる。映画はその家族をビデオカメラで撮ったホームムービーの一種。それでいて観客をひきつけたのは、家族の生きざまを通して日本と北朝鮮に引き裂かれた歴史が見えてきたからだ。

 済州島出身のヨンヒの父は、北朝鮮を祖国と決め、1959〜84年まで続いた「帰国運動」に奔走。3人の息子を祖国に送り込んだ朝鮮総聯の幹部だ。彼にとって祖国は「地上の楽園」となるはずだったが、現実は違った。

 ヨンヒは遠く離れた家族の絆を深めようと、北朝鮮で家庭をもった兄たちを撮り、大阪では両親を撮ってビデオレターの役割を果たす。撮られる側も、カメラの前で日常生活のありのままをさらす。その結果生まれた一本のドキュメンタリーによって、観客は貧しくても日本とさして変わらない北朝鮮の庶民生活をかいま見ることができた。

 そのヨンヒが第二作『愛しきソナ』をつくった。一作目は家族の交流を介して歴史に翻弄(ほんろう)された父の生き方をあぶり出したが、本作は次兄の娘ソナの成長に焦点が当てられている。

 1995年、3歳のソナがピョンヤンの外貨レストランでアイスクリームを頬ばるシーンから始まる。ヨンヒが両親と北朝鮮を訪ねるたびに撮った、(ソナを中心とした)家族の変遷がとらえられている。ボウリング場で遊んだり、ミッキーマウスの靴下をはいて登校したり、亡くなった母の墓前で歌ったり。また、ヨンヒに拉致問題を問いつめられ、落ち込む父の姿も印象に残る。

 入国禁止となったヨンヒのもとに、大学合格の知らせとともに届いたソナの写真がいい。希望は彼女に託される。ソナの写真と拉致された横田めぐみさんの娘さんの笑顔がダブって見えた。国交が断絶していても、彼女たちはその地で生きていく。

[追記] なお『ディア・ピョンヤン』については、拙著『映画は自転車にのって』所収の「北朝鮮と日本――引きさかれた家族」にくわしく書いています。とくに「帰国運動」の意味もこれを読んでくだされば、理解していただけると思います。

(木下昌明 『サンデー毎日』2011年4月10日)


Created bystaff01. Created on 2011-03-31 23:14:42 / Last modified on 2011-03-31 23:34:05 Copyright: Default

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