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木下昌明の映画の部屋・111回
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●映画「再会の食卓」
人は離別し都市は拡散するが
「食卓」でつながるものがある

 歴史って何だろうか、と考えさせる映画が時折公開される。ワン・チュエンアン監督の中国映画「再会の食卓」もその一つで、ある老兵と妻の実話をもとにした作品という。40年前に生き別れになった台湾に住む夫が、上海の妻を訪ねるドラマだ。夫は1949年、蒋介石率いる国民党の兵士として、毛沢東率いる共産党との内戦に敗れ、台湾に退却した。現地の妻をめとったが、年老いて妻も亡くなり、一時帰郷したのだ。

 昔、台湾ニューシネマの一本に「老兵の春」(84年)という映画があった。それは軍と共に台湾に渡ったが、中国に残した家族の元に帰るに帰れず悶々としていた老兵が、やがて山岳地の女性と結婚し、ここを永住の地とする物語だった。「再会の食卓」はその後日談のように思えた。

 上海に取り残された妻の方は、乳飲み子を抱え途方にくれていたとき、面倒をみてくれたのがいまの夫で、二人の間には孫までいた。それでも彼女は内戦で引き裂かれた昔の夫が忘れられない。また、いまの夫は共産党の元兵士で、昔の夫とは同胞でありながら殺し合った歴史がある。そんな埋めようもない時を隔ててどんな再会をはたすのか。

 しかし、ドラマの中心には、いつもおいしい料理の大皿が並んだ大きな食卓がおかれていて、それを囲んで元夫と妻の家族との団欒がとらえられている。歓待されたのだ。が、元夫が妻を台湾に連れて帰りたいと申し出、彼女もその気になったことから家族間の葛藤がはじまる。

 一方で映画は、経済発展めざましい上海の変貌ぶりと旧市街の懐かしい光景を重ねつつ、人間関係が希薄になっていく現代に光をあてて、これでいいのかと問うていた。

 そんななか、老いた3人が敵対しあったあの時代を礼節を失うことなく語り、歌いあう食卓のシーンは圧巻。このとき背後に息づく分断の歴史にも光がさしこんでくる。味わい深い一品だ。(木下昌明/「サンデー毎日」2011年2月6日号)

*映画「再会の食卓」は2月5日からTOHOシネマズシャンテ、Bunkamuraル・シネマほかでロードショー、全国順次公開


Created bystaff01. Created on 2011-02-07 20:43:35 / Last modified on 2011-02-07 20:45:10 Copyright: Default

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