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木下昌明の映画の部屋・74回
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●土本典昭の映画
「医学としての水俣病」は必見 全部まるごと土本典昭の世界

 このところ映画館にドキュメンタリーがよくかかる。それは大いに結構なことだが、いずれも小粒な作品が多く、今一つ物足りない感じがする。

 戦後日本のドキュメンタリー映画界の第一人者、土本典昭の作品に遠く及ばないと言えば言い過ぎだろうか。その土本が亡くなって1年、彼の代表作23本が東京国立近代美術館フィルムセンターの地下で連日上映されることになった。土本には、列車の安全運行を問うた傑作「ある機関助士」(SLファンにはたまらない)にはじまって、ソ連撤退時のアフガニスタンに赴き、脈々と流れる地下水を頼りに砂漠に生きる人々の側から戦争をとらえた「よみがえれカレーズ」など興趣つきない作品が多い。が、なかでも漁民と生活を共にしながら生涯をかけて水俣病問題を追究した数多くの作品(本企画では11本上映)が見ものである。

 水俣病は、いまや一地域の公害問題ではなく、地球規模で起きている、利潤追求のために自然環境を破壊し、人間を壊していく社会問題の原型になっている。土本は、その病に侵された漁民の生活と立ち上がってたたかう姿を通して、社会病としての水俣病の全体像をえぐり出していく。

 その点では「医学としての水俣病」三部作(3本)は必見といえよう。一部では「奇病」とされていた時代に医学者が8ミリで撮った猫や人間の異常行動に衝撃を受けよう。二部では猿を使った実験で脳に有機水銀が蓄積していくさまに慄然としよう。三部では地道に現地で診療にあたる若い医学者に胸打たれよう。土本が医学者を動員して社会と病のかかわりにせまっていく、その気迫に圧倒される。

 なお、同センター7階では土本の「企画展」が催され、夫人の作った講演ビデオをはじめその時々の映画づくりの資料を覗き見ることができる。ノートの一字一句に土本の几帳面な性格もうかがえる。それらからも土本映画の神髄が見えてこよう。 (木下昌明/「サンデー毎日」09年8月23日号)

*写真=「みなまた日記」撮影風景。土本典昭のドキュメンタリー映画は8月11日から東京・京橋の同センター小ホール(京橋映画小劇場)で公開 ハローダイヤル03-5777-8600

<追記>

ここでは土本の代表作の一つとして「医学としての水俣病」を「必見」として取り上げましたが、実は代表作はなんといっても第1作の「水俣−患者さんとその世界」がかかせません。続けてチッソ経営陣と患者が対峙する第2作の「水俣一揆」もそうです。土本作品(水俣もの)をみていない方は、この2作をみた上で「医学としての水俣病」をみてほしいと思います。一本一本は独立した作品ですが、同時に連続しているからです。画面に登場する人物は、最初は若々しくてもしだいに病に侵され、ついには亡くなっていくケースもあるからです。連続でみると、この人間(そして集団)の歴史的変化がよくみえてきます。

また第1作は、あと21日(午後2時〜)、30日(午後3時〜)の上映ですが、いずれも短縮版ではなく2時間47分の完全版です。土本は常々完全版でみてほしいといっていました。ついでにかきますと、第2作の「水俣一揆」は、映画上映と解説で、高田馬場メディアールで23日午後3時から「映画を通して社会を考える」のテーマで行います。こちらにもぜひ参加を希望します。(木下)

8/23「水俣一揆」上映会(MediR)


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