木下映画批評 | |||||||
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●木下昌明のWEB版・映画批評『ザ・コーポレーション』(2005年12月20日掲載)
「民営化」という名の企業専制をあばく
木下 昌明
この映画には、資本主義のシステムに関する「目からウロコ」の話が結構でてくる。たとえば、先物取引業の一人が「あの9・11事件のとき、真っ先に考えたのは、これで金が高騰するぞ、だった。もちろん金はすぐはね上がった。1991年の湾岸戦争のときは石油が高騰したんだ。つぎの戦争が待ち遠しかったね」と、真情吐露しているシーン。このような発言は資本のルールにのっとれば当然のことかもしれないが、それにしてもあの事件では、同じアメリカ人でも悲嘆にくれる人々ばかりでなく、驚喜した人々のいたことがこれで推察できよう。その意味では、社会には表の顔とはまるで違った裏の顔があることを教えてくれる。それはグローバリゼーションの申し子である大企業に光をあて、その性格や実態などにメスを入れているからだ。これが実に興味ぶかい。
初めに、企業を一人の人間にたとえて精神分析すると、「他人への思いやりがない/人間関係を維持できない/他人への配慮に無関心/利益のために嘘を続ける/罪の意識がない/社会規範や法に従えない」といった「人格障害(サイコパス)者」の診断結果がでたという。利己的で非情なやつ−−そんなやつがいま、モンスター化し、政治家を手足につかって世界を支配しようとしている。どしがたい世の中になったものだが、映画は、この企業の正体をあばくために40人もの証言者を入れかわり立ちかわり登場させている。あの『華氏911』のマイケル・ムーアや言語学者のノーム・チョムスキーをはじめ、シェル石油の前会長、ファイザー製薬の副社長、ノーベル経済学賞の学者、全米労働者委員会の委員長など、多岐にわたっている。そのかれらの証言を、ジョエル・ベイカン、マーク・アクバー、ジェニファー・アボットの三人のカナダ人が、反民営化の立場から共同でまとめたもので、145分の長編ドキュメンタリーに仕上げている。
画面は、各人各様の証言とともに企業が起こしたさまざまな犯罪や問題についてのエピソードが流され、全体にめまぐるしい展開になっている(この点は心がけてみるといい)。しかも一つひとつのエピソードは、それだけでも一本のドキュメンタリーになるぐらいの問題をはらんでいる。
たとえばムーアは、ナチスドイツの台頭の背景にアメリカの大企業がかかわっていたことを語る。GMやフォード、あるいはコカ・コーラが「ファンタオレンジ」などの戦需品で富を築いたこと、また作家のエドウィン・ブラックは、IBMがホロコーストでパンチカードの管理業務に加担して儲けていたこと−−大企業は、国家間の敵対を逆に利用し、両方ともに協力していたわけだ。わたしは戦後、ハリウッド仕立てのナチス・ドイツをやっつける戦争映画をみて喝采していたが、そんなうわべの正義などくそっくらえで、裏ではナチスサマサマと儲けさせてもらっていた企業は、歴史的にファシズム政権(独裁国家)を育成することで自らも成長(膨張)していたのである。そのことがここからみてとれよう。
もう一つ、わたしを引きつけたエピソードに、ボリビアの水道民営化に反対する抗議行動がある。それはベクテル社(いまイラクで暴利をむさぼっている巨大企業)の子会社が、水道供給事業を引きついで間もなく、住民から月収の25%もの水道料を取り立てたことから起きたもの。天の恵みの雨水さえもが商品と化し、会社の所有物とされた。驚きである。これに民衆は決起したのだ。−−ここでは民営化に反対して民衆は立ち上がらないとどんなにひどい目に遭うかを教えてくれる。
いま、日本でも「官から民へ」という小泉のかけ声に呪縛され思考力を失った人々がなだれを打って民営化路線へ突っ走っている。しかし、民営化とは、言葉のイメージとはうらはらに、大企業が国民の財産を私物化することである。だから、チョムスキーも「民営化とは、公共機関を善良な人に譲ることではない。専制政治へそれを委ねることです」と説いている。
このままでは、日本の民衆も、企業と同じ「サイコパス」に患(かか)るのはそう遠くはない。いや、すでに患っている。
【東京・渋谷 アップリンクにて12月10日より公開】
http://www.uplink.co.jp/
(『労働情報』685号・2005年12月15日付より転載)
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