3分ビデオ座談会 | |
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以下は「労働情報」2004年新年号に発表されたものです。「労働情報」誌(03-3837-2544)のご厚意で転載させていただきました。 ビデオ座談会 観る側から創る側へレイバーフェスタ2003「3分ビデオ」初体験者は語る<出席者> 2003年11月8日、レイバーフェスタ2003が東京・中央区の労働スクエア東京で開かれた。昨年から始まったフェスタの呼び物の一つが「3分ビデオ」。ところで今年の「3分ビデオ」には初体験者が3人、作品作りに挑戦した。3人が語るビデオの醍醐味。 ●「娘の時間」と父親の悲哀 司会 11月に行われたレイバーフェスタでは「3分ビデオ」に17本の作品が出品され、非常に好評でした。この座談会には「3分ビデオ」で初めてビデオに挑戦した3人と、ビデオプレスの松原さんと佐々木さんからビデオ作品を作る楽しさや、ビデオの持つ可能性を語り合ってもらいたいと思います。まず、木下さんが作られた「娘の時間」(写真)の感想から。 尾沢 私は新鮮な感じっていうか、お父さんの悲哀みたいなのが切々と伝わってきて、すごくおもしろいビデオだなって思いました。 武田 すごかったですねえ。やはりユーモアは大事です。広告業界の働き方が滅茶苦茶なのは友人からも聞いていましたが、2年間もよく続くなあって。よほど好きなのか。できれば娘さんのインタビューがあったらいいのに、と思いました。 司会 木下さんは映画批評を長らくやってきて、自分で作品を作ったのはたぶん初めてだと思うんですが……。 木下 この作品は3分ビデオに出すためではなかった。娘をこのまま放置しておくと、過労死すると見ていたから、仕事を辞めさせなければと思って弁護士や過労死110番に相談したのですが、本人が嫌がっていないので止められなくて。最後の手段としてビデオでも撮って、とにかく記録に留めておこうと思ってやったんです。ですから恥も外聞もなく自分をさらしているところもあるんです。それがおもしろがられたと思うんです。技術的には非常につたないんですよね。 ●「ZEN」の魅力 司会 尾沢さんが作品を作った動機は何ですか。 尾沢 私はレイバーフェスタにZEN(※韓国の音楽グループ)を呼べたらいいなあっていうのがまずあったんですね。19歳とか22歳、24歳の若い子たちが労働者の歌を歌いたいってことで、一所懸命現場に行って労働者の話を聞いて、自分たちで詞を作ったりして活動しているんです。そういう彼らの一所懸命さを日本にも知らせたいと思って、3分ビデオにしました。技術的には私も全然駄目なんです。機械が苦手で(笑)。初めてビデオカメラを買って撮ったんですけど、編集は松原さんに「お願いします!」っていう感じで(笑)。 松原 ほとんど編集してないですよ(笑)。シナリオもナレーションも彼女に書いてもらって。 尾沢 野外でのコンサートだったから寒くて震えちゃって、ちょっとブレたりしてますけど。でも彼らのインタビューを取れてよかったと思っています。 佐々木 インタビューで驚くのは、若いZENのメンバーから新自由主義とかグローバル化とかいう言葉がポンポン出てきて、日本は新自由主義を世界に広めている一員だなど、ツボを押さえたことをバシッと言ってるんですよ。皆そこで驚くわけですよ。すごいなあって。 尾沢 韓国の労働運動の中で育ってきているなとすごく感じるんですね。やっぱり民主労総を中心とした現場でのいろんな闘いがあって、彼らはそこに行って歌っている。そういう中で活動を続けているから、ああいう言葉がふっと出てくるんでしょう。 ●日本人女子大生の驚き 木下 ある女子大生の感想ですが、彼女がびっくりしていたのは、自分と同じ世代の人間が労働運動の基礎をわかっていて、こんなに知的な話をするという点でした。彼女は労働運動は年寄りのやることだと思っていたらしいのですが、労働問題は現実に若い人にも直接、影響を与えている。それを考えさせる上で、韓国の若い人がああいう発言するというのは非常に重要なことです。彼女も、そこから労働問題についての思考が始まると思うんですよ。 松原 その学生はこうも言ってましたね。「労働問題って何を言ってるのかわからない。労働条件も全く興味がない。もし学生で興味があるとすれば就職難のことだけだ」。すごい落差があるなって感じたのです。ただ、参加した人たちの拍手などを聞いて「レイバーフェスタの団結力はすごいんですね」って感想も言ってました。 一同 (笑) 松原 ちょっといろんな異質の体験をしたというか。 ●「ヨドバシカメラ暴行事件」 木下 武田さんは、なぜヨドバシカメラを撮ろうという気持ちになったの? 武田 青年ユニオンの中では、僕がヨドバシの事件に興味があって、担当にさせてもらいました。僕自身も映像に興味があるっていうか、曲がりなりにも美術科生だったので。 佐々木 アーティストなのよね。 武田 大学で自治会活動をやっていたこともあって、青年ユニオンに誘われて活動をはじめました。僕はオルグとかは論理的にわかるんですが、それを相手に説明するのはすごくおっくうで。どんなに噛み砕いてもわかってもらえないこともある。どうやって相手にわかってもらうかよりも、押しつけがましくなく、考えてもらうことが重要だ。それでビデオを使ってみようと思って、急ピッチでやりました。 松原 ヨドバシカメラの事件を僕はメールで知って、身近なところで大変なことが起きている。そこで青年ユニオンにこれを3分ビデオでやってよって言ったんですよ。 武田 ああ、そうなんですか。 松原 この作品は暴行を受けた本人が顔を出せないから非常に難しいです。だから本人の声を中心としたビデオになるのかなと思ったら、非常におもしろく作られていた。血のついた衣服のシーンだとか、1枚の写真をすごくショッキングに出しながら、しかも「あなたの周りに派遣の人はいませんか?」という問いかけをした。やはりすごく力を持った作品で一味違った。それは彼が持っている視点なんだと思ったね。 木下 ヨドバシカメラの店を撮ってるけど、現実に事件があったところなの。 武田 別の店です。事件が起きた店を撮ったら危ないかなと思って。 木下 ビビッたわけだ。(笑い) 武田 ちょっとビビッったと言うか。 松原 意識しなければ店の中でも平気で撮れるが、意識してここを撮ろうっていう場合には、本当にドキドキしますね。 ●シロウトでも工夫が光る 佐々木 3人は初めてビデオカメラを購入して撮影したわけですが、ここで苦労したというのはありますか? 木下 全くのシロウトだからね。 佐々木 木下さんの作品で、娘さんの声だけ撮れていて画面に何も映ってない、真っ黒の場面がありましたよね。 木下 あれは娘が戸を閉めているから、真っ暗な廊下で声だけ聞いているっていう場面。意識的にやったわけじゃないんだけど、結果的には臨場感が出た。逆に言えば見えないから「何だろう?」って感じで好奇心を持たせるっていうかな。 佐々木 声に集中しますよね。 松原 そういうときにカメラを切らないで回してたっていうのがすごい 。 木下 それはね、記録として撮ろうと思ってやった結果なんで。だからカメラがブレようとどんな状況かだけは撮っておこうと思ったので、ああいう感じになった。 武田 僕の場合は、音が最悪だったので映像に集中しようと思って、プロモーションビデオみたいな感じで後ろに音楽をひとつだけ流して、後はもう映像だけでパッパ、パッパっと。 佐々木 ナレーションもないし、全部テロップで処理しているところがかえっていいんですよね。 ●現場に関わる「3分」は強い 武田 3分だから、ひとつの事象しか出せないわけじゃないですか。かといって10分20分と長くなってくると大変だし。 尾沢 3分って、すごくいろんなことが表現できるんだなあって感じましたね。 木下 フェスタに来ていた人で「3分でもすごく情報が入っている」って驚いていた人がいたね。 武田 作り手がたくさん伝えたいことがあるから、3分って短いなって最初は思ったけれど、やってみるとすごく情報量が多いですよね。そのギャップがおもしろかったです。 木下 戦前のプロレタリア文学運動の中で労働者の通信というのがあった。それは活字なんだけど、戦後もずっと3枚(400字詰原稿用紙で3枚)から5枚ぐらいのもので職場の現状を訴える労働者通信みたいなものってけっこうやりましたよね。それを今度は映像でやってみたらどうかと僕はずっと思っていた。松原君たちが始めたビデオプレスも国鉄民営化攻撃がピークを迎えた86年に、初めて国鉄の職場へ入り込んでいろいろ撮ってきた。これが基本なんだよね。職場へ行ってとにかく短くても現場を撮ってみようと。 松原 その発想です。 木下 3分ビデオの発想の根っこにあるのがそこですよ。それが結果的に『人らしく生きよう』のように長編ドキュメンタリーになったんだけども。やっぱり歴史は動いているからドラマも作られていくんで、3分ビデオの積み重ねが超大作になることも大いにあると思うんです。 佐々木 私たちも最初は集会の撮影に行ったんですよ。分割・民営化反対の集会の映像を短くして皆に使ってもらおうと思って。だから報告から始まったんです。 ●“撮るのは闘い” 松原 そのとき8ミリフィルムを使ったが、まだマニアの世界でした。ところが80年代後半からビデオが身近になって、それからもう10年以上たっちゃった。もし運動がもっと盛んだったら、ビデオも今以上に活発に使われていたと思う。国鉄闘争でも結構ビデオが使われていた時期があって、音威子府闘争団もかなり撮ってますよね。しかし、なんで撮っていたかというと相手の不当労働行為を摘発するためです。だから解雇された当時の記録は残っているが、その後継続して撮ってる人はほとんどいない。 木下 だから撮るっていうのは闘いなんだよね。 松原 そうですね。原点だと思います。 木下 僕にとってはささいな娘との闘いなんですよ。娘と争うことになればそれをまた撮ろうと思って。僕は絶対こういう状態が許せないんですよ。 松原 木下さんの娘さんは極端な例だけど、最近の労働相談の内容を見ても、長時間労働がものすごく問題になっている。だからレイバーフェスタの3分ビデオに派遣や長時間労働による過労の問題が登場したのは、今の社会の状況を反映していて、よかったと思う。ところで、尾沢さんは、やっぱり初めてですか? 尾沢 韓国に行くので買ったんです。 ●テレビにも出ていたZEN 木下 ZENっていうのは、どういう意味なんですか? 尾沢 座禅の「禅=ZEN」みたいですね。 松原 実際にビデオで撮影して、大変だったのは? 尾沢 舞台を鮮明に撮るっていうのは難しい。照明が次々と変わるし、野外で夜ですからどのように撮影したら鮮明に撮れるのかがわかんないんですよ。雰囲気を伝えるくらいしかできなくて。 松原 舞台撮影っていうのは一番難しいテーマです。照明が当たっているから、うんと明るいところと暗いところがあったりするんですよね。かなり難しい対象に最初から挑戦しちゃった。でもインタビューはよく撮れていると思いましたよ。インタビュー撮るのって難しいんですよ。 木下 あれは仲介者がいたんですか? 尾沢 私は韓国の労働文化運動をやっている人たちとはかなり長いつきあいがあって、ZENの詞に曲をつけてる人と今年の2月に会ったんです。それで「ZENいいよねーっ」て話になって。「今度コンサートに行きたいな」って言ったんです。それでコンサートの通知が来て。彼らのマネージャーは80年代に民主化闘争をやってた人で、それからも学生運動や労働運動にかかわっていたんですね。だから、若い人たちの教育をしっかりやってるなあと思うんですけど。でもZENのいきさつを聞いたら、ダンスグループを募集したら300人ぐらい集まってきて、その中から5人をオーディションで選んだって言ってましたね。 佐々木 最初はテレビにも出てたんでしょう? 尾沢 そうそう。 ●テウ自動車争議との出会い 佐々木 いつ頃から路線を変更したんですか? 尾沢 なにせ日本からも「デビューしませんか?」っていう話があったくらい。だけどテウ自動車の整理解雇に反対する闘いの現場に行って、座り込んで闘っている労働者たちを見た。自分たちも警察、機動隊に取り囲まれてもみあったりして、「労働者の心情を訴えたい、労働者とともにありたい」っていう風にだんだん変わってきたということです。 佐々木 今回はマネージャーの人との関係のなかで取材ができたの。 尾沢 そうです。 松原 やっぱり人間関係ができているんで、あそこまで撮れたんです。インタビューで向うもファミリアに対応してくれているし。初心者でも視点ができている人にカメラを渡すといいわけね。技術はあるが視点のない人を送り込んでもいいものは撮れない。 ●伝えることが一番大事 武田 つい最近思ったんですけど、別にビデオカメラを持たなくてもいいやと。若い人なら携帯電話に写真がついてますし、デジカメもだいぶ普及し始めて。僕の作品でも写真をそのまま紙芝居みたいにやったんですけど、それだけでも少なくとも訴えるという気持ちでやれば、すぐ作品になるんだと思いました。 木下 そうですよ。 松原 ビデオだけではなくて、伝えるってことが一番大事なんだよね。ビデオがなければ写真でやるという発想で。 武田 そういう風に皆がなってくれれば。 佐々木 かえって写真の方がいい場合もあるんですよね。動いているものより静止したもの。 木下 僕は古い人間だから、映画を作るとなれば大勢の人間が必要で、ワンカットを撮るだけでも大変な準備と努力の積み重ねが必要と思っていた。しかし今度、ビデオを使ってみて驚いた。ちょっとボタンを押せば全部ちゃんと映ってるんだよね、照明もなにも関係なくて。それから、『新しい神様』という作品でヒロインの女性が自分の前に鏡台のようにビデオを置いてしゃべるシーンがありましたね。撮る側が自分を主人公にして両方を兼ねることができるっていうその撮り方に驚いたが、僕はあれをまねた。批評を書くときなんかは一所懸命書いて「ああ、いい文章書けたなあ」って思っても、誰も「いい」とは言わない。反応がないんですよね。ところがビデオには皆反応するんです。だから映像ってすごいと改めて思いましたね。 ●ビデオの講習会をやろう 松原 そうした作品の発表の場をどう作るかが重要です。今回レイバーフェスタで3分ビデオをやると言ったら、じゃあ発表できるんだったらと思って作品が作られる。木下さんがレイバーフェスタの実行委員会で東京女子大の学生に、「就職難に関心があるっていうのなら、それで作ったら?」って言えば、もしかしたら次はやってみようかってなるじゃないですか。 木下 そうですね。やっぱりフェスタっていう場があったから作ったんだよね。 松原 皆さん今回初めてビデオカメラを買って撮影しましたが、やはり技術的に最低限知っておいた方がいい部分があります。技術的なサポートの面が今後、必要かなっていう気はするんです。ワープロの打ち方じゃないけど、最低限のことを身につければかなりよいものがつくれます。1日講習すれば全然違いますから。 武田 どっちかっていうと心構えみたいなものに近いですよね。別に機械の調子がいきなり悪くなるわけじゃないし。 松原 説明書を見ればだいたいの使い方はわかるんだけど、説明書だけではわからない撮影の基本ポイントがあって、それを身につけるといいですね。 尾沢 そういう講習をやってほしいな。 松原 そうそう、ぜひそれをやりたいな。それと、市民メディアが培ってきたひとつの成果として「つくる・見せる・変える」という言葉がある。「つくる」は誰でも作れるよっていうメッセージ。「見せる」は上映会。その後に「変える」をつけたんです。従来も「つくる」と「見せる」まではいくわけね。「変える」っていうのは何かというと、ただ観て「よかった」じゃなくて、観た人同士がディスカッションする。そうするといろんなものの見方が出てきたり、発見がある。僕らは普通の映像作家ではなくて運動としてやっているわけだから、「つくる・見せる・変える」が重要だと思っている。 ●ビデオの初心は活字の反省にも 司会 それは活字媒体も同じですよね。 一同 そうですよ。 木下 「労働情報」が、なぜこういう企画をしたのか聞きたいなと思っていたのです。 司会 本当はビデオを観る側と作る側の両方からと思ったんです。でもやっぱり作る方がおもしろいと思って…。やはり、「労働情報」にとって耳の痛い話がいくつも出ました。表現の重要な点を忘れたり、形だけだったり。ビデオにはかなわないのかなと思っていましたが、もう一回原点に戻っていけば、活字媒体だってもっと本来の伝える力を出せるって思いました。 松原 本当、その通りですよ。 司会 文章だと、ワープロが出現して間に機械が入ることによって、無駄な言葉をどんどん後ろへ持っていけるので文章がとても書きやすくなったっていう経験、ありませんか。でも、ぴったりした単語を思いつくのに半日くらいかかることがあるけど、ビデオではどうなんだろう。 佐々木 同じよ。そういう過程を経て作っていくわけだから。うまくいかない時もありますよ。 松原 ただね、ビデオの場合には上映会で上映するっていう手間がかかるでしょう。今はインターネットで動画も送れるけど。活字の場合には簡単にものすごい量をばら撒ける。 佐々木 一人ひとりに渡せちゃうしね。 松原 その意味じゃあ媒体の役割はすごく広くて、一長一短ですよね。その中でもう一回メディアを見直すっていうか、伝えたいことを持っている人に伝える役割をやってもらうという原点がきちんとできていれば、おもしろいものになると思う。 武田 活字もビデオもそれが手段だけになってしまうと、いずれまた詰まってくると思うんですよ。だから撮ってて楽しいとか書いていて楽しいとか思えるようになれば、そこからどんどん広がっていきます。 ●質がアップした今年 司会 去年のレイバーフェスタの3分ビデオと比較して、今年はとても質がアップしたなというのが実感なんだけど。 武田 実行委員会も皆そんなことを言ってましたね。 松原 それは1回目のときはかなり無理をしているから、自発的に集まったものが少なかった。今回は自発的な作品が増えたんです。それに今日討論した作品のような現実の一断面をきちんと捉えている作品が三つあれば、それだけでインパクトがある。 佐々木 今回観て、皆すごくおもしろいって言ってるから、そういう人たちがまた作ってくれると次のフェスタではもっとおもしろい作品が出てくるんじゃないかなと思います。 司会 どうもありがとうございました。 *なお3分ビデオ集は1500円でレイバーネット日本より頒布中です。お申し込みはこちらへ。 Created byStaff. Created on 2005-09-04 20:40:21 / Last modified on 2005-09-04 20:40:22 Copyright: Default |