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投稿者:吉原 真次

「平和の礎」を読み上げて思う/軍隊は住民を守らない

 6月1日から23日、沖縄「平和の礎」に刻まれた戦没者の名前を読み上げる集い(集い)が開催された。「平和の礎」に刻まれた犠牲者の名前を読み上げることで戦没者を追悼し、戦争の教訓を継承して世代を超えた学びの場を作り、世界に平和を発信することを目的にした集いは2022年から始まり、県内各地と全国23ヵ所さらにアメリカなど世界9か国・地域から延べ1549人が参加して戦没者の名前を読み上げた。

 平和学習の一環として「平和の礎」を活用したいと強く思う集いの事務局は、昨年の早い段階から県内外の教育機関への呼びかけを行った。参加者・参加校の数は飛躍的に伸び、県内各市町村の参加・支援も増大して役場や住民が地域を挙げて協力、アメリカ、台湾、ウクライナなど世界8か国・9地域からの参加を含めた延べ3822人が集いに参加した。

 そして今年、沖縄戦最後の激戦地となり多くの住民が犠牲となった糸満市の市場から始まった集いは全生徒が参加した宮古島の上野中学校と沖縄本島の大宜見中学校をはじめ、沖縄と全国の各地、さらに海外から5800人以上が参加して24万2225人の犠牲者の名前を読み上げた。

 私は沖縄県と福井県の戦没者各500名の名前を1時間かけて読み上げ、一昨年と昨年にはできなかった読み上げの同時配信を視聴し、時には戦没者の名前を読み上げて参加者の思いに近づこうと努め多くの事を知ることができた。深く知ることができたのは戦争が終わっても遺族の心の中では戦争は続き子供や孫の世代に深刻な影響を及ぼすこと、そして軍隊は住民を守らないことだ。

 沖縄の読み上げ者が犠牲者の名前を読み上げた後に「私のおじさんです。」と呟き、アメリカからの参加者が読み上げ後に太平洋で戦った親戚が戦争で心を病んだと話すのを聞き、79年を経ても心の中では戦争が終わらないことを実感した。また読み上げに使った名簿を再読しフィリピン・ミンダナオ島のダバオ市で戦没した方の遺族の苦難に満ちた生活を想像してみた。肉親だけでなく全財産を失った遺族は収容所での苦しい生活を送った後に出身地の沖縄に送還されたが、壊滅的打撃を受けた沖縄での生活は困難を極めたに違いない。働くのに精一杯で子供たちの将来やや教育を考える余裕がない親もいて子や孫に何らかの影響を及ぼしたに違いない。さらに生き残った人の晩発PTSD(心的外傷後ストレス障害)も忘れてはならない。封印してきた悲惨な戦争体験が蘇って騒音におびえる人、避難の際に受けた傷の痛みが蘇り苦しむ人たちが戦後79年後の今もいることを忘れてはならない。

 ある機会でサイパン島戦没者の遺族の証言を聞いたが、避難の途中でまるで石垣のように積み重なった死体の上にたまった水を飲み、日本軍に自決を強要された住民が崖から飛び込むのを見た経験は戦後も心に癒えることのない傷を残している。

 5月22日に南部に撤退した32軍は住民を戦闘に巻き込み多大な犠牲を強いた。撤退後約1カ月間に住民の犠牲が集中しているが、その中には米軍の攻撃の他に日本軍に防空壕から追い出され、食料を強奪された住民、戦闘の邪魔になるとされ毒殺・絞殺された幼児、スパイと見なされて虐殺された住民も含まれている。名簿の中の本島南部で戦没した中部の人は避難の途中で日本軍の数々の蛮行を見たに違いない。

 戦闘のなかった八重山諸島で日本軍は住民をマラリア無病地帯から有病地帯へと強制疎開させ、全人口3万1681人のうち半数以上の1万6864人がマラリアにかかり3647人が死亡する「戦争マラリア」の悲劇が引き起こされた。日本軍は住民を追い出して戦闘をやりやすくし、捕虜となった住民から軍の情報が漏れるのを防ぎ、住民が育てた家畜を軍の食糧として強制収容する為に住民をマラリア有病地に追放した。農業のできない疎開先で食料不足により体力の落ちた住民たちは薬不足も相まって次々と死んでいった。また軍が戦後も敗戦を住民に知らせなかった為に「戦争マラリア」の犠牲者が増大してゆく。ちなみに八重山諸島で猛威をふるったマラリアが撲滅されたのは戦後17年経った1962年だ。

 雑感の下調べで、2004年から21年まで南西方面の防衛を担当する陸上自衛隊第15旅団が、慰霊の日に合わせて牛島満第32軍司令官らを祀る糸満市摩文仁の「黎明の塔」に集団参拝していたこと、15旅団の公式ホームページに牛島満の辞世の句があることを知り、自衛隊が住民を戦闘に巻き込んだ沖縄戦を反省していないことがわかった。反省がなければ進歩はなく、沖縄戦の悲劇が繰り返される危険性は十分にある。

 来年も集いに応募し、もし読み上げの機会を与えられるならば『沖縄「戦争マラリア」』(大矢英代著、あけび書房)、『南洋戦・フィリピン戦(被害編)』(瑞慶山茂編、高文研)の両書をしっかり読んで読み上げ後の僅かな時間に軍隊が住民を守らない事を話したい。(8月5日)


Created by staff01. Last modified on 2024-08-06 09:49:19 Copyright: Default

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