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映画祭詳報 : 8本の作品が壮大な一つの映画となった
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第3回「レイバー映画祭」が9月26日、過去最高の220人の参加で成功した。この企画の魅力のひとつは、作り手と受け手が会場で直に語り合えることだ。

レイバーネット共同代表の河添誠さんが、「今日は韓国から駆けつけた仲間もいます。映画を見るだけでなく、ぜひ交流を深めてください」と開会あいさつ。

1本目の作品は「労働者の夢」(トラン・フオン・タオ監督)。ベトナム・ハノイの自由貿易地帯で、派遣社員として働く女性たちの生活を追ったドキュメンタリーだ。彼女らを雇うのはキヤノン、パナソニックなど日本の大企業だが、月給はわずか6000円。正社員とは比較にならない低賃金で、身も心もボロボロになるほど働かされている。

仕事が終われば、夢遊病者のようにふらふらと家路に向かう。同僚と田んぼを歩き、「心が安らぐ」とため息をつく。華やかなショッピングモールでは、1本の缶コーラを3人で、コップに分けあって飲む。

狭い部屋のベッドに横たわり、「私たちには希望がない。3人は違う日に生まれたけれど、同じ死に方をするわね」とつぶやく横顔に、胸が締めつけられるようだ。

「工場内でのシーンは残念ながらないが、安心して長く働きたいというささやかな願いすらかなわない、この現実は何なんだ。これは私たち日本の企業の問題だ」。日本語字幕を制作した松原明さん(ビデオプレス)は憤然と語った。

「サワー・ストロベリーズ」は、日本で働く外国人労働者の実像を描く。ドイツ人の製作者が日系ペルー人、中国人研修生を取材した。彼ら彼女らの切実な肉声の随所に、自民党衆院議員河野太郎のコメントが挿入され、政権与党の傲岸不遜な本音が、いっそう際だって聞こえてくる。

渋谷の街を行く外国人労働者のデモ行進。カメラがレンズを向けるのは、デモ隊ではない。あたかも無関心を装って沿道を歩く、日本人の姿なのだ。

日本最大の繁華街・歌舞伎町で記者は「外国人入店お断り」の看板を見つけ、店側にその意味をただす。のらりくらりと逃げ口上を繰り返す経営者。インタビューに応える外国人の当事者の背景に、淡々と過ぎていくこの国の「日常」がある。

上映後、全統一労組の鳥井一平書記長は、来日した韓国音響労組の仲間を紹介しながら、鳥井氏が取り組んでいる「外国人研修生」問題への理解と支援を訴えた。(写真下)

障がい者への差別と虐待でその名を馳せた東京・墨田区の「大久保製壜」。「俺たちは人間だ」と叫び、命をかけて立ち上がった労働者の闘いの記録「人間を取り戻せ!」は、1994年の作品をリメイクした最新版だ(製作・ビデオプレス)。

各地で労働争議が頻発していた1970年代。障がい者たちは、正社員とまったく同じ働きをしながら、露骨な賃金差別を受けていた。抗議をすれば、口汚く罵られた。洗面器に排尿させてそれを頭からかける、女性の下着に手を入れる、殴る蹴る。そこは職制の暴力が日常化した、奴隷工場そのものだった。

ついに自分たちの組合を結成して闘い始めた。会社側の介入、分断工作もエスカレートした。組合員のバイクに覚せい剤を忍ばせた謀略事件は、当時マスコミでも大きく報道された。上京した親たちをも巻き込んだ不屈の闘争は、22年をかけて勝利、解決した。仲間とともに闘うことで、当たり前の人間らしさをようやく取り戻したのだ。

当時の記録映像に登場する杉田育男さんがこの日、駆けつけた。杉田さんは、長い闘いのなかで御用組合との間を行き来した労働者も、最後には自分たちの戦列に戻ってきたことに触れ、「仲間は必ず立ち上がる」、「職場、地域、全国の仲間とよってたかってたたかって、本当によかった」とメッセージを読みあげた。

「国労バッジははずせない!」は、JR東日本でただ一人、小さな組合バッジをつけて勤務する辻井義春さんの物語。「就業規則違反」で当局から数え切れないほどの処分を受けながらも、信念を貫こうとするその姿に、私たちは大きな勇気をもらう。

生活への不安を涙で口にする連れ合いや家族の苦悩が、やがて理解に、そしてJRへの怒りへと変わる。そんな家族のきずなや関係性が、私にはとても羨ましい。(写真下=登壇した辻井夫妻)

製作した湯本雅典さんは、「闘い続けることの意味を再確認した取材だった」とご夫妻を紹介した。辻井さんは昨年12月、1円もカットされていない満額一時金を、入社して初めて受け取った。

5番目に上映されたのは、「京品ホテルの人々」(企画・東京ユニオン)。JR品川駅前に歴史的な建造物を残す京品ホテル。偽装廃業に反対して立ち上がった従業員たちの闘いは、店の常連客ら多くの市民に支えられ、連帯の輪を広げていった。 ベッドメイキングの手を休めずに、客室を移動しながら、質問に答える女性の後ろ姿。金本正道支部長が自慢げに並べて見せた包丁が、料理人としての誇りに輝いていた。

今年1月。警察権力を動員した資本のやり方に、労働者、支援者らは身体を張って抵抗した。

「暑い日も寒い日も、毎日毎日働き、闘っている方々がいた。何もできない自分が悔しかった」。取材した根来祐さん(写真右)は、ハンカチで顔を覆いながら言葉を詰まらせた。参加者は大きな激励の拍手を送った。

「ユニセフ」と「ユニオン」を間違えていた−−大分キヤノンで請負として働き、突然解雇された加藤州平さんは、作品中のインタビューに答えて漏らした。インターネットでたどり着いた労働組合に加盟。分会を立ち上げ、大勢の仲間とともに、新年のオトソ気分に浮かれる経団連中枢に迫っていく。

「会社の方が詐欺だった〜日研総業ユニオン 大分キヤノン分会物語〜」を撮った土屋トカチ監督(写真左)はこの日、「完成したのは昨夜」と告白。大分での取材の様子を披露した。「ガテン系連帯」の池田一慶さん(写真右)は、主人公・加藤さんに初めて会った時のエピソードを明かした。

「加藤さんは私をサギ師ではないかと疑った。たしかにそう見えるかも知れないが、サギ師じゃない」と会場の笑いを誘った。作品のタイトルには、こんな微笑ましい秘話があった。鮮明な映像が再現する労働者たちの妥協のない怒りが、見る者の胸に迫る。これこそ労働組合の本来の、本当の姿ではないか。

記録映像「ソウルを揺るがしたキャンドル」は、昨年6月「BSE問題」に端を発した韓国市民の不満が、刻一刻と李明博政権を揺るがす大運動に拡大する過程を、インターネット画面を中心に構成している。スピード感あふれる展開で、街頭闘争のリアリティが伝わってくる。(写真下=来日中の韓国メディアアクティビスト)

「この自由な世界で」(ケンローチ監督)が最後に上映された。シングルマザーのアンジーは、不当な解雇を機に、友人のローズと「職業紹介所」を起業する。きれいな看板を掲げてはいるが、その実態は、失業者たちを企業に送り込む「手配師」である。 中間搾取によって順調に利益を上げ続ける彼女は、事業に自信を持ち、家庭や恋人と会えない寂しさを埋めるように、仕事にのめり込む。やがて不法就労まで斡旋しようと計画。相方の警告を無視して、誘惑と堕落の深みにはまり込んでいく。

解説に立った映画批評家の木下昌明さん(写真左)は、「脚本を書いたのは人権活動家でもある弁護士。移民問題も含んでいる。観客は、どこまでアンジーの行為を許すのかと、自分に問いかけながら見る。貧しい労働者が、さらに悲惨な労働者を食い物にしないと生きていけない、という現実を描いている。これはイギリスだけの問題ではなく、われわれ日本人の問題でもある」と語った。

上映された全8本の作品は、いずれも除外できないような傑作揃い。むしろ8本がそれぞれ章となり、壮大な一つの長編映画を形成しているかのようだ。

閉会後、フェスタを準備したスタッフたちは、水道橋交差点脇の小公園で、ささやかな祝杯をあげた。神田川からの夜風に吹かれ、一つのイベントを終えた解放感に浸りながら、ハンドマイクで順番に発言した。 歌や川柳も飛び出した。アンジーの行動をめぐる議論もあった。新しい仲間との出会いは、次のステップへの励みにもなるだろう。 仲間たちは感動と成功の余韻に包まれて、深夜まで語り合っていた。(報道部・Y)


Created by staff01. Last modified on 2009-09-30 22:08:41 Copyright: Default

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