黒鉄好のレイバーコラム「時事寸評」・第14回 | |||||||
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第14回・権力に飼い慣らされた「記者クラブ」の哀れな実態●特別の便宜供与 多くの人が行き交う官庁街に、今年もクールビズの季節がやってきた。昼休みともなると、ネクタイを着けず、ワイシャツの首のボタンを外したラフな格好の官僚たちが、額の汗を拭きながら街に繰り出す。小泉政権の置き土産の中で、貧富の格差の拡大につながらずに済んだものといえば、このクールビズくらいだろう。 中央省庁や地方の国の出先機関が入居する合同庁舎を訪れたことがある人なら、そこに売店や食堂、自動販売機、郵便局や銀行の窓口、時には理髪店や喫茶店まで入居していることをご存じの方も多いと思う。これらは官僚たちの福利厚生のためという名目で入居しているが、代金さえ支払えば誰でも利用でき、その価格も世間より安いため外部からの利用もたくさんある。 国有財産法では、国の業務と直接関係のない者に対して国有財産を貸してはならず、職員の福利厚生のために店舗を入居させる場合でも、必ず有料使用として賃料を支払わせることを原則としている(だからこそ、経産省前テントひろばに対し、経産省は一度、賃料を支払わせようと試みたのだ。賃料を取れば使用を許可したことになる、と気づいて最後は結局、あきらめたようだが)。しかし、ほとんどのテナント商店が、国に対して賃料を払いながら営業をしている中で、国の機関でないにもかかわらず庁舎に入居し賃料も支払っていない組織がある。それが諸悪の根源――記者クラブである。 記者クラブは、多くの庁舎でロビーからもエレベーターホールからも遠く離れた建物の端に、人目を避けるように置かれている。ほとんどが看板も掲げず、掲げている場合でも「霞クラブ」とか県政○○会などという名称に「偽装」して、訪れた市民に記者クラブだと悟られないようにしている。よほど後ろめたいのだろう。彼らがもしこれを「報道の自由、国民の知る権利のために闘って勝ち取ったスペースなのだ」と思っているなら、堂々と看板を掲げればいいではないか。実際の彼らの姿は、報道の自由や知る権利などといった高邁な理想とは無縁の状況にある。 そもそも、テナント商店が賃料を払っている中で、国の機関でもない記者クラブがなぜ賃料無料という特別の便宜供与を受けているのか。国有財産法にそのような規定はなく、この「特別措置」は何を根拠にしているのか。それを調べていくと、記者クラブを飼い慣らし、手なずけようとする政府の本音が見えてきた。 ●政府の「口」となるなら無料? 「行政財産を使用又は収益させる場合の取扱いの基準について」と題された1本の通達がある。1958年、当時の大蔵省管財局(現在の財務省理財局)から各省庁宛てに発せられたものだ。この通達には、新聞記者室を「国の事務、事業の遂行のため、国が当該施設を提供するものであるから、この基準における使用収益とはみなさないことができる」とする規定がある。使用収益とは難解な官僚用語だが、有償使用の意味だとお考えいただいてかまわない。記者クラブに対する特別の便宜供与の「根拠」がここに示されている。 しかも、この通達をよく読んでみると、使用収益と「みなしてはならない」でも「みなさないものとする」でもなく「みなさないことができる」という表現になっている。新聞記者室に対する賃料を無料にするかしないかの裁量権を国(財務省)に与える内容だ。これが何を意味するか、もはや説明するまでもないであろう。 私は、ある財務省関係者に「国の機関でもないのに、どうして記者クラブだけこのような取扱いをしているのか」と尋ねたことがある。すると彼は悪びれもせずこう言った。「国の業務の一環だからです。本来なら我々がやるべき広報業務を各メディアさんに担っていただいている。だからそのようにしているのです」。 やはり私の予想していたとおりだった。件の通達にあった「使用収益とみなさないことができる」とは「おとなしく政府の口(広報宣伝機関)として働くなら賃料はタダにしてやる」の意味だったのだ。 ●唯々諾々と家畜化するメディア それにしても情けないのはメディアである。テナント商店が正々堂々と競争入札で営業権を得て、賃料も払って営業している中で、自分たちだけが賃料無料となっていることを疑問に思うだけの力量もなければ便宜供与を返上する気概もない。あるのは政府の広報機関として、プレスリリースを疑いも持たず垂れ流す奴隷根性だけだ。便宜供与を受け続けるなら、せめて私が冒頭に書いたように「報道の自由、国民の知る権利のために闘って勝ち取ったスペースなのだ」と弁明のひとつくらいしてもらいたいものだ。それすらもせず、訳のわからない同好会のような名称に偽装して、ロビーから遠いところに隠れるように存在する記者クラブが日本を悪くした病弊のひとつであることに異論はないだろう。 仮に、正義感の強い記者が、官僚の腐敗の事実をつかみ「徹底追及したい」と考えたとしても、記者クラブがある限り無理だと思う。「それで記者室使用料が有料になったとき、お前は責任を取るのか」とデスクに言われたら、その記者は追及をあきらめるか、辞表を叩き付けフリーとして追及を続けるかのどちらかになるだろう。権力に飼い慣らされた記者クラブから優れた調査報道など生まれようがない。 先日は、国会記者会館の屋上から官邸前金曜デモの写真を撮ろうとしたネットメディアの記者が、クラブ非加盟であることを理由に屋上の使用を拒まれるという「事件」もあった。国会記者会館の自称「管理者」の男は、「非加盟社には建物の使用を許可できないというガイドラインがあるなら示せ」と迫るネットメディアの記者に対し、「ガイドラインはない」「見せられない」「子どもの駄々のようなあなたの相手をしていられない」など、会館があたかも自分の私有物ででもあるかのような居丈高な対応に終始したが、この男などは「権力の家畜」生活が長すぎて自分が人間であることさえ忘れてしまった哀れな奴隷の最終形態であろう。 マスコミ関係者は、今、自分たちが国民からどのように見られているか知っているのだろうか。インターネットを覗いてみると、最近の日本のマスメディアは良くて北朝鮮並み、悪ければそれ以下(報道の自由があるのに自分からそれを投げ捨てているという意味で北朝鮮より悪い)という辛辣な評価が下されているのだ。 記者クラブなど百害あって一利なし。さっさと解散して個々の報道機関、記者個人が切磋琢磨し合いながら技量を磨いていく以外に、この国のメディアが立ち直る道はない。 <参考> (黒鉄好・2012年7月10日) Created bystaff01. Created on 2012-07-11 10:40:36 / Last modified on 2012-07-11 10:44:24 Copyright: Default |