STOP Mail Form

法務省入国管理局による外国人に関するメール通 報制度の

即時廃止を求める声明


2004年3月15日  

社団法人自由人権協会  

代表理事 更 田 義 彦

同    弘 中 惇一郎

同    紙 谷 雅 子

同    田 中  宏 


 自由人権協会は、かねてより外国人の権利小委員会を置くなどして、外国人の人権問題に関する研究・提言・出版活動などに取り組んできました。

 このほど、法務省入国管理局は、2月16日からホームページ上で「不法滞在等の外国人」に関するメール通報制度を開始しました。しかし、この制度は、以下に述べるとおり、日本人と外国人との間に不必要な緊張関係を作り出し、ひいては人種差別を含む基本的人権の侵害を引き起こすおそれが極めて高いと言わざるを得ません。また、日本も批准している人種差別撤廃条約に違反するものであり、日本政府の締約国としての義務に違反するものであります。

 したがって、自由人権協会は、法務省入国管理局が直ちにメールによる通報制度を廃止することを強く要請いたします。


 このメール通報制度は、定型のフォームにしたがって「違反者と思われる人に関する情報」「違反者と思われる人の働いている場所又は見かけた場所等に関する情報」「違反者と思われる人の住居に関する情報」などを記載させることにしています。その記入欄では、情報提供者の名前は「匿名を希望される方は入力しなくても結構です」とされ、無責任な通報を横行させる懸念が強いものとなっています。

 また、「通報動機」には多くの選択肢が用意され、「近所迷惑、不安、利害関係、被害を受けた、同情、雇用主(企業)が許せない、ブローカーが許せない、違反者のために解雇された、違反者のために求職できない、違反者が許せない、その他、不明」などとなっており、ちょっとした違和感を安易な通報に誘導する可能性があります。


 この制度は、多くの問題点をはらんでいますが、以下に主なものを指摘します。


 第一に、このフォームでは出入国管理及び難民認定法第62条にいう「通報」の範囲(同法第24条の退去強制事由)を大きく逸脱する情報提供がなされるおそれがあります。これは、退去強制事由に該当するか否か、という基準に沿った判断を求めることなく、単に感覚的に「不審者」と思われる外国人に関して通報させようとしていることによるものです。このような手法は、外国人、或いは外国人と思われる者に対して、常に疑心暗鬼の眼差しをもつように仕向けるものであるとの非難を免れないところであり、人権侵害の可能性を除去しようとする慎重な配慮を全く欠いています。


 第二に、通報の態様や通報のための詮索の過程で、プライバシー侵害を惹起することも予想されます。すなわち、通報の態様において、たまたま知りえた外国人の私生活に関わる情報を積極的に入管当局に通報することは、本来、プライバシーとして保護されるべき領域まで侵すことになる可能性が高いと言えます。また、通報のための詮索の過程で、故意にプライバシー侵害行為がなされるおそれも大きいと考えられます。


 第三に、「不法滞在等の外国人」にのみ限定して情報を求めてはいますが、実際には、在日コリアン、日系外国人をはじめとする、適法な在留資格を有する多くの外国人も通報の対象となるおそれがあります。中国帰国者や外観だけからは「日本人」と認識されないかもしれない日本国籍者についても同様です。こうした場合、最終的には入管当局による摘発には結びつかないものの、当局の調査対象となることによる様々な圧迫や在留上の不利益を受ける可能性が予想されます。


 第四に、以上のような取扱いは、外国人に対して、日本人とは異なる視線を向けることを前提とする措置であり、人種差別を助長する結果を招来するものと言わざるを得ません。国連の人種差別撤廃委員会は「人種差別」か否かの判断について、「ある行為が条約に反する効果を有するか否かを決定しようとする際、委員会は、人種、皮膚の色、世系又は民族的若しくは種族的出身によって区別される集団に対して、その行為が正当化されない異質の影響を有するか否かを検討するよう意を払うであろう」(一般的勧告14,1993年)としています。入国管理局によるメール通報制度は、まさに「正当化されない異質の影響を有する」と言うほかはないものです。


 このように見てくると、入国管理局によるメール通報制度は、明らかに人種差別撤廃条約に抵触すると言わざるを得ないものであり、日本政府は締約国としての義務に違反しています。

 すなわち、このメール通報制度は、同条約第2条1項本文「締約国は、人種差別を非難し、また、あらゆる形態の人種差別を撤廃する政策及びあらゆる人種間の理解を促進する政策をすべての適当な方法により遅滞なくとることを約束する」、及び同項(a)「各締約国は、・・・国及び地方のすべての公の当局及び機関がこの義務に従って行動するよう確保することを約束する」、また同項(e)「各締約国は、・・・人種間の分断を強化するようないかなる動きも抑制することを約束する」と規定している各条項に反するものです。さらに、 同条約第4条(c)「国又は地方の公の当局又は機関が人種差別を助長し又は扇動することを認めないこと」との規定も見過ごされてはなりません。


 現在、日本国内には185万人(2002年末現在)を超える外 国人登録をした外国人が居住し、留学生10万人計画も20年がかりで昨年達成されました。様々な問題を抱えながらではあっても、日本社会は確実に多くの国籍や民族・文化を背景とする人々がともに暮らす社会に向かっています。彼ら彼女らは、日本人が就きたがらない労働に従事していることも多く、また、中小零細企業の生産現場、建設現場、飲食店など外国人労働者に依存している分野も多くみられます。今や、外国人は日本社会のなかで共に暮らす隣人であり、すでに日本社会の構成員としても不可欠な存在となっていると考えられます。こうした多文化・多国籍の者が共に暮らす社会には、互いの違いを認めて尊重し合い、互いを許容する意識を醸成することが不可欠です。メール通報制度は、共生を目指すべき社会の理念に反し、逆に大きな障害物になると言わざるを得ないものです。

 そればかりではなく、こうした通報の奨励が一般化した場合には、日本社会は密告が横行する息苦しい監視社会となり、それによって、日本人・外国人を含む日本社会全体が、自由で民主的であるべきその存立の基盤を掘り崩され変質していく危険性も懸念されます。


 以上の理由により、自由人権協会は、法務省入国管理局が直ちにメール通報制度を廃止することを要請します。


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